ここに在らず。



「サエちゃん?居るかな?」

「……」


返事はしていない。それでも私の部屋のドアは勝手に開けられて、そこから引きつった笑みを貼り付けた母が顔を出した。


「本を読んでたの?偉いねサエちゃんは」


なんて、勝手に入って来て早々に意味の分からない言葉を発する。本を読んでいるだけで偉い訳がない。母が私を煽てて持ち上げようとしているのがヒシヒシと伝わってくる。

気持ち悪い。気分が悪くなる。
私はもうこの人の魂胆を分かっている。


「…ところでサエちゃん。最近帰りが遅いんだってね。学校帰りに何かしてるのかな」


…ほらね、やっぱり!

こちらの様子を見るのもそこそこに、母は本題へと入った。

この人は向こうの人に何とかするよう言われて来たんだ。じゃないと来ない。こんなところに来る訳が無い。


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