ここに在らず。


暗い倉庫の中。

忍び寄り、私を取り囲むのはいつもの暗闇。


ーーあぁ、音が聞こえなくなる。


またこの世界に閉じ込められる。


あの人は、あの人はどんな人だった?


なんでこんなにあの人を求めているのに姿が思い出せないんだろう。でもあれは現実。だからあの日お仕置きされた。


そう。あれは現実ーー


現実だからこそ、それが辛い。



長い長い時間だった。

閉ざされた扉が開かれる。明るい外の光が目に入り、すでに朝が来ている事が分かった。

ようやく解放されたと思ったら、そのまま私は離れへと連れていかれる。なんだろう…と思いつつも素直に中へと入った瞬間、背後で玄関のドアがガチャリと音をたてた。

…ん?鍵?

内側から見て鍵は掛かっていない事が分かる。

でもあの音は…

私はそっとドアノブに手を掛けて押してみた。外開きのドア。鍵がかかっていないのなら開くはずだった。…しかし、


「…え?…開かない…」


そこでようやく、私は外から鍵をかけられたのだと、ここに閉じ込められたのだと理解した。


そして私は悟る。やっぱり今日が最後だった。現実が変わる最後のチャンスを、私は逃したのだと。


< 37 / 576 >

この作品をシェア

pagetop