*ふわり、はつこい*

❋さくら、

❋さくら、


─9月中旬─


陽汰先輩とはあの日から一度も会っていない。

なのに、頭からあの光景が離れなかった。


「三瀬さん、ごめん倉庫からペンキ取ってきてくれない?赤色が足りないの」


クラスの委員長の内野さんが困ったように私に頼む。

今は文化祭の準備中。

私達のクラスは無難にお化け屋敷。

そのための看板を塗っていたのだが、ペンキが足りなくなってしまったらしい。


「うん。分かった」


私はペンキを取りに教室を出た。


「三瀬っ」


出ると同時に教室のほうから名前を呼ばれ、振り向く。


「俺も行くよ」


それは速水くんだった。


「ペンキ意外と重いから、たぶん三瀬一人じゃ持てないよ」

「ありがとう」
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