ROMANTICA~ロマンチカ~
氷室涼輔は何も言わなかったけれど、内心では「ざまあ見ろ、このクソガキ」とでも思っているんだろうな、と想像した。



だけど、もう口惜しいとかシャクだとかそういう考えを持つ余裕もないほど泣けてしまった。


 
「ウワーン……エグッ、ヒッ……?」
 


頭の上に温かい感触、あたしは思わず顔を上げた。


 
氷室涼輔が、ひどく困ったような顔をしながらも、その大きな手であたしの頭をなでてくれていた。

 
それで余計に泣けてきて、さらに涙があふれてくる。

まったく、人の身体の中からこんなに水分が出てくるなんて……泣きながらも感心してしまう。


 
「そんなに泣くな」


 
綺麗にアイロンをかけた男物のハンカチで、そっと涙を拭ってくれた。

あたしが素直にそれを受け取った後も、彼はずっとあたしの頭をなで続けてくれていた。
 


「大きく、なったな……」


 
彼が小さくつぶやいたような気がするけれど、気が動転していたからそう聞こえただけかもしれなかった。
 

< 75 / 369 >

この作品をシェア

pagetop