My Precious ~愛する人よ~ Ⅰ
「遅かった――っ」
悔しさの上に言葉を乗せる
深い溜息と共に、グレイスの肩を掴んでいた手がダラリと落ちた
間に合わなかった・・・
強く瞳を閉じると、瞼の裏にクレムの街が思い返される
力強い鉱山の国――
春になると、見渡す限り緑に囲まれ
真っ白な花が咲き乱れる
その山々の間から見る朝日が、心を震わせるほど美しかった
「クレムは滅びた」
世界に響く、ホリスのどこか冷めた声
その声を聞き、ゆっくりと瞳を開けた
「この国から出る事は――」
「許す事はできない」
強い言葉が俺の声の上に被せられる
顔を上げると、力強い瞳で俺を見つめるホリスと目が合う
美しい銀の髪が、そっとその肌の上を滑る
どこまでも美しい、アネモスの騎士
それでも、その美しさ故に
空気さえ凍らせるような、冷たさをはらんでいた