花嫁指南学校

 退学届けへの署名を断られ、娘は怒って帰ってしまった。

 かくなる上は学校から逃げ出してやると言っていた。あの娘には頑固なところがあるから言い出したらきかないかもしれない。こちらは母親として娘の幸せを願っているから、あの花嫁学校に入学させたのに、あの娘にはその親心が全然わかっちゃいない。

 ふと母親の脳裏に「エース・プロジェクト」という社名がひらめいた。さっき理香が口にしたのは事務所はそういう名前だった。そういえばそこは元彼氏が専務をしている芸能事務所ではなかったか。

 自分と交際していた当時、あの男は出世のために自分を捨てて二世スターの女優に乗り換えたのだ。女優の父親は大物俳優で業界では顔の広い人物だった。あの男は俳優としては売れなかったが、義父の人脈を頼って大手芸能プロダクションに就職した。

 彼女はあの男に妊娠を告げないまま一人で理香を産んだのだ。


 それから母親は携帯を手に取り、エース・プロジェクトの電話番号を押した。事務所の電話番号は携帯のインターネットで検索したらすぐに見つかった。

 電話を取った人間には、「吉葉」という名前を専務に告げればわかるからと言い、なんとかあの男に取り次いでもらうことができた。久しぶりに聞くあの男の声は前にもましてライトだった。
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