マッタリ=1ダース【1p集】

第45話、サンクスレター

 棒付きキャンディ−をくわえた小平(こひら)が出社すると、煩雑な机に四つ折にされた白い紙が、キーボードの上に置いてあった。

 椅子を引き寄せ、ギシギシと軋ませながら尻を押し込む。見計らったかのように小平の腰が悲鳴をあげた。

 紙切れには部材担当の吉永のサインがあった。中を開くと、子供が拙いながら書いたのか、ぐにゃぐにゃの文字が目に入る。

 ──なおしてくれて、ありがとう。このゲームきはてんごくにいるおとうさんからもらった、たいせつなプレゼントです。

 ほんとうはサンタさんのプレゼントだってことになっているけど、ねているときにおとうさんが、コッソリやってくるのを、ボクはみちゃいました。

 そんなたいせつなものをおっことしてしまい、かなしくて、ないてしまいました。

 おとうさんはおとこのこはないちゃいけないっていうけど、ボクはがまんできませんでした。

 それがピカピカになってかえってきて、ユメのようです。なおしてくれたみなさん、ほんとうにありがとうございました。

 ──小平は傍らのキーボードをガチャガチャと操る。

 カミムラナオユキ?
 モニターに映し出される個人情報。次の画面へのキーを押す。

 電源入らず。外側の樹脂破損と、内部フレキシブル基板の断線。保証期間は既に切れていて、有償で対応済み……。

 小平は石膏ボードで埋め尽くされた天井を見上げ、キャンディーの棒を口から引き抜いた。一週間前の記憶に遡る。


「コレ、形見だよ。お父さんの」

「限定モノだな。すまんが何度来ても、無いものは無いよ。この……えー、ナオユキ君には気の毒だが、仕様を変えて貰うしかないな」

 痩せ眼鏡の吉永が、伝票を突き返す。

「丸ごと色交換なんかしたら形見じゃなくなる。そんな簡単に片付けないでくれ」

「嫌なら返却だって出来る。レア品なんだから、分かってもらうしかないよ」

 小平はすがるように部品棚を見渡す。そこから段ボール箱に目を落とした。

「なあ、よっチャン。商品ならある?」

「ソイツのか? クレーム対応用に、2、3個ならあるが……」

「部品取りしたい」

「なんだって!? レアな商品潰すってか?」

 結局この件は小平が押し切った。全てはユーザーの笑顔の為なのだ。
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