マッタリ=1ダース【1p集】

第54話、オートマチック

 彼は自殺した。
 オートマチックに疑問をもって。

 夢のような死に方だと言っていた。

 機械に囲まれた生活をしていて、ある日、人間が機械の世話をしていることに気付いたのだ。

 パソコンしかり、電子レンジしかり。取りに行くまで、ぴーぴーとなる機能。

 アラームは起きるまで鳴り続け、スヌーズで、何度でも繰り返される。

 強制的に、人間が従わされている。

 ストレスが溜まる。

 便利なのか?
 本当に便利なのか?

 自問自答が堪えない。

 いつしか、ピーピー鳴っても、取りにいかなくなった。彼は一度目のアラームで起きなくなった。

 自分自身が抗うことで、自分自身の生活が壊れ、失われてゆく。

 彼は思った。どうしたらいいのかと。

 答えは簡単だった。
 それは、盲点。

 残されたのは、常時通電してるパソコン。デスクトップにあるテキストファイル。

 彼の遺書、最後のメッセージ。

 薄暗い部屋。
 星のきらめきのようなルーターの光源を除けば、モニターだけが、唯一の明かりらしい光源。

 私はポインターを合わせ、クリックする。


「オートマチック」


 僕は機械やプログラムに食われ、二進数になった。僕を分解し、信号線に流し込むため、僕は魂となり、エネルギーの粒として、生まれ変わる。

 そのことを考えただけで、恐ろしさで身が震え、食べ物も喉を通らず、夜も眠れない。

 それならいっそのこと、自分から望めばいい、受け入れればいい。僕はそう思った。

 ただ、君をこの世界に置いていくことを許してほしい。
 ごめん。


 ……彼のメッセージはこれだけ。

 バカじゃない。

 結局、彼は失敗した。
なぜなら、私が引き止めたから。それとも……もう抜け出したのかしら?

 彼は死を望んでいた。
 だから、自殺。
 そう、……自殺。

 黒い髪で覆われた後頭部にべっとりと血が付着し、滴(したた)っている。

「まだ若いのに、バカね。バカよ」

 キーボードを操り、テキストに打ち込まれる私のメッセージ。

 電化製品を揃えたのも、アラームを設定したのも、みんな私。ずっと前から彼を殺していたのは、ワタシ。

 本当は逃げたかったんでしょう?
 気付いてなかったの?

 震えているオレンジ色の電源スイッチに、少しずつ指に力を込める。

「でもね、死って、きっとこんなものだと思うの」

 限界点を超えて、カチっと音を立てた。

 すべての炎が、闇に消えた。
< 54 / 57 >

この作品をシェア

pagetop