Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
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終業も目前に迫った時刻。
営業へ書類を出してきた帰りの廊下を歩いていると、前方に見知った笑顔に出くわした。
「悠里さん。」
「ああ、マエリさん。土曜日なのにお仕事ですか。熱心ですね。」
僕の労いの言葉に彼女は頬をうっすら染めて面映げに微笑む。
「ええ。フィギアの量産の一弾が今日納品でしたの。会社で確認しても構わなかったんですけど、今日は悠里さんも休出するって聞いていたものだから……」
「そうでしたか…。丁度僕も貴女にお会いしたいと思っていたので嬉しいです。」
これまでにない積極的な言葉に彼女が「え?」と嬉しそうな顔を上げる。
僕は彼女の手を取り、その掌にある物を置いた。
事故当時から思い出も無いままに嵌められていたもの。
彼女との愛を証明する
―――婚約指輪。
「欲しければ差し上げますよ。ケチが付いたので今更取り返す気にはなりませんから。」
マエリさんの首元にはサイズが合わないからとチェーンに通したコレの対になる代物がある。
サイズの合わない婚約指輪を贈るなんて記憶を失う以前の僕は相当なおっちょこちょいなのか…と思ったりもしたけれど。
合う訳が無い。
全く別の人の物だったんだから。
え?と洩らしたマエリさんは全く事態が呑みこめていないよう。
人は思いもよらない事態に遭遇した時どうしてこうも無防備になれるものか。