君想歌
次第に二人の距離が近くなる。

重ねていただけの手のひらは、
いつの間にか指が絡んでいる。

今夜泊まる宿の近くまで歩くと
土手に並んで腰を下ろした。


咲いたのは三日前。

満開になったのは昨日。


時折、吹く風で桜の花弁は
舞い落ちる。

ひらひらりと宙を舞う花弁は
地面に静かに積もっていく。


夜の帳が完全に降りた中。

この場所には二人しか居ない。

「うん……。綺麗」

桜を見上げて言った和泉に
栄太郎は口元を緩めた。


「和泉の方が綺麗だよ」


横に緩く結った髪型も。

大人っぽい着物も。


いつも見ている和泉とは
正反対を見ているようで。


どれ程、彼女に惚れてるか
再認識させられる。


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