だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
そう。
湊はいつも、そう。
私のことが一番で、自分の事は二の次で。
私のため、って言いながら色んなことを我慢するような人。
「幸せにしてあげてくださいよ、って言ったら、『俺は色んなことを我慢させることになるからな』って笑ってた。誰より、しぐれの幸せを考えてたからだろう?違うのか?」
櫻井さんの言葉は、私の胸にずしんと重さを持って落ちてきた。
間違いなく、私の幸せを一番に考えてくれていた。
そんなこと、私が一番知っている。
でも、湊の隣にいることが私の幸せだったんだ、と声に出して言いたい。
でも、その言葉は飲み込んだ。
今言っても、櫻井さんはそれすら予想しているだろうから。
「俺の気持ちへの返事は、まだ保留にしておけ。今の状態で、返事は欲しくない」
櫻井さんは、それだけ言ってタバコを取り出した。
ライターの炎に映し出された櫻井さんの横顔は、私の涙で滲んで見えた。
ちょうど目の前の夜景のように、ぼんやりとしたフィルターがかかっているみたいだった。
「寂しいときに甘えてくれよ。気休めでも、なんでもいいから」
タバコの煙と一緒に吐き出すように言った。
その手を取ることは、櫻井さんを苦しめるだけだと知っている。
「・・・出来ません。だってそれをしたら、櫻井さんが辛くなるだけです。そんなのは―――――」
「そんなのは俺が決める!俺の気持ちを、お前が決めるな。聴こえてただろう、亜季との会話。俺だって同じなんだ。狡さでいいから、手を取ってくれよ」