だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
苦しくなるほどの切なさが、また充満している。
この人の一挙一動に、少しずつ心が反応する。
「・・・出来ません」
「まぁ、そう言うと想ってたけどな」
櫻井さんは切なげにこちらを向いた。
不意に合った目線に、動揺したのは私の方だ。
正直な気持ちを、言わなくてはいけない。
「櫻井さんは、湊によく似ていて・・・。代わりでもいいから、と想ってしまいそうなんです」
「・・・」
「でも、湊の代わりなんていないと。そのことを身を持って知っているのは、私自身なんです」
「そうだな」
「例え、ほんの少し気持ちが揺れたとしても。櫻井さんの気持ちに同じ気持ちで応えることも、その気持ちに手を伸ばすことも、今は出来ません」
言葉がばらばらと落ちた。
真っ直ぐ櫻井さんを見つめて、その目を逸らさずに伝えたいと想った。
櫻井さんは、その目線に応えてくれた。
「まだ、湊が好きだから」
簡単なこと。
まだ、湊の面影を至るところで探してしまう私には、櫻井さんに手を伸ばすことは出来ない。
でも、湊と櫻井さんが似ているのは、まぎれもなく事実だった。
「はっきり言うねぇ。だから時雨がいいんだよ」
楽しそうに櫻井さんは呟いた。
「俺だって簡単に引き下がれるかよ。七年越しの片想いなんだよ。あの時のお前が、今でも俺に焼きついてるんだ。泣きもせず、じっと湊さんを見送ったお前が」