モントリヒト城の吸血鬼② 〜望まれざる来訪者〜

甘え―姫乃

ノックの音に、姫乃はちらりとドアを見た。

…沙羅だろうか。
もう、何日も、顔を合わせていない。

僅かな期待を抱いて、ドアを開ける。

外にいたのは、朔夜だった。

相手が沙羅じゃないことに少しだけがっかりしながら部屋の外へ出ると、朔夜はそんな姫乃の心の中を見透かしたようにあきれ顔で言った。

「沙羅ではなくて、残念でしたね。」
「…別に、そんなこと一言だって言ってないじゃない。」
「おや。凍夜の話では口をどこかに隠してきたときいてましたが、ちゃんとあるじゃありませんか。」

嫌みたっぷりに凍夜と口を聞いていないことを非難されて、姫乃は少しムッとする。

「沙羅とのケンカの件ではあなたの気持ちもわからないでもないですから、特に何か言うつもりはありませんが、凍夜に関してはいい迷惑です。いい加減、彼に変な甘え方をするのはやめてほしいものですね。」
「…なんのこと。」
「わかっていてやっているくせに、とぼけるのはやめなさい。…あなたがめんどくさい甘え方をしている相手は、そういう甘え方に全く免疫がない、
わがままで気まぐれなあの凍夜ですよ。
しびれをきらして手痛いしっぺ返しが来る前に、態度を改めることですね。」
「…嫌味を言うためにわざわざきたの。」
「それほど暇ではありませんよ。凍夜はここに来ていませんか。」
「いないわ。わたしがうたた寝してる間に出かけてしまったみたい。」
「東雲も連れて?」
「たぶん。」
「そうですか。仕方ありませんね。」
「…ねぇ、朔夜。」
「なんです。」
「…。…沙羅は…どんな様子?」
「まぁ、体調はさほど悪くありませんよ。もっとも、大好きな姉と初めて喧嘩したわけですから、機嫌は最悪ですがね。」
「…。…そう…。」
「…それにしても、僕の忠告は遅かったようですね。凍夜不在のときはいつもあなたに付けている東雲まで連れていくなんて。…可愛げのない花嫁にとうとう愛想を尽かして、どこかで浮気でもしているのでは?」
「…凍夜はそんなことしないわ。」
「わかりませんよ。キミに相手にされない憂さ晴らしに、他の女性と…。」
「そんなんことする前に、凍夜ならまずわたしで直接憂さを晴らすわよ。」

言ってから、凍夜に対する自分の態度を後悔する。
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