捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
 

「……でも、やっぱり俺にはいつもの高さが良さそうです」

「え?」

「どうやら俺の身長が低くなると、琴音さんからの振り回され度が10倍になりそうですから」

「!」


そう言って、惣介さんはちょっと照れたような表情を見せる。

……まただ。そうやって私を振り回す。


「……えっと。それ、そっくりそのままお返ししておきます……」


私の言葉にふっと顔を緩ませた惣介さんに何だかくすぐったい感じがして、私も顔を緩ませてしまう。

どんな話をしていても、惣介さんといると自然と笑顔になれる。

すごく……気持ちが穏やかになれる。


「じゃあ、今日は1日俺に振り回されていてくださいね」

「えっ?」

「行きたい場所はここだけじゃありませんから」

「あ、そういう意味ですね」

「あれ?どういう意味だと思ったんですか?」

「!べ、別に意味はないです!」

「くくっ。そういう意味でも振り回せるように頑張ってみます」

「!」

「ところで、そろそろお腹すきませんか?」

「あ!……すいてるみたいです、ね」


私はお腹に手を当てて、空腹だと確認すると。


「あれ?今日はお腹で返事してくれないんですか?聞きたかったのに……残念ですね」


くすくすと笑う惣介さんに、1回目のデートでお腹をぐぅと鳴らしてしまった失態を思い出した。


「!惣介さんっ、酷いです!もうっ」

「俺は全然構わないのに。またそのうち聞かせてくださいね?」

「絶対に聞かせません!」


何だ残念、と言って、惣介さんは海に目を向ける。

私もつられて海を見ると、そこには一艘の船が浮かんで、真っ青な海に白い線を作っていくのが見えた。

 
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