あたしのトナカイくん
「………」

「あ、お疲れっす」



更衣室から出た瞬間、目の前を通りかかった戸波くんに軽く挨拶されて、あたしは見事に固まった。


うっはああああなんで今日も戸波くんとシフト一緒なのよおおおおお??!!


内心のそんな激しい動揺は表に出さないまま、「お、お疲れさま」とぼそぼそ言って、そそくさとこの場から離れようとする。

すると戸波くんが一瞬眉を寄せて、なぜかぐっと、こちらに顔を近付けてきた。



「ッ!!?」

「……なんか、今日──」



彼が訝しげな顔で、何か言いかけたけれど。

厨房の方から戸波くんを呼ぶ声が聞こえて、パッと彼はからだを起こした。



「ハイ! 今行きます!」

「っあ、じゃあ、あたしも行くから……っ」

「え、あ……」



戸波くんの横をすり抜けて、カウンターへと向かう。

彼は何か言いたげだったけど、あたしはそれに、気付かないフリをした。

熱い頬に両手をあてて、ほぅっと、息をつく。



「(このままじゃ、だめ、なんだよなぁ……)」



きゅっと、下唇を噛んで。

あたしはきっちり仕事をこなすべく、顔をあげた。
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