あたしのトナカイくん
自分のからだの異変に気付いたのは、バイトが始まって、1時間ほどが経った頃だった。



「(やばい、からだだるい……)」



そうは思うけれど、数年間のバイト経験で積み重ねた仕事の動きを、淡々とこなしていく。

だけどもそのうち、空いたグラスを落としそうになったり、伝票の文字が霞んできたりして。

そろそろ本気でまずいかな、と、客が去った後のカラオケルームから回収した食器類を運びながら、少し早めに休憩をもらおうか考えていたら。



「……ッ、」



ぐらりと、視界が歪んで。一瞬、からだの力が抜ける。

──あ、やばい、おぼん落としちゃう。

そう考えたあたしのからだを、自分以外の誰かが支えた。



「あっぶね……」

「っえ、」



すぐ耳元で聞こえたその声に、今自分を支えてくれている人物を知って、またからだが熱くなる。

その人物──戸波くんは、先ほどのように眉を寄せて、あたしのことを見下ろしていた。



「三多さん、事務室。さっき、店長には話しといたから」

「え、な、なん……」

「いーから、こっち」



何事かと厨房から顔をのぞかせた他のバイトくんに、彼はあたしが持っていたおぼんを押しつけて。

先を歩くその背中を、あたしは手首を掴まれながら、ぼんやりと追いかけた。
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