ヒールの折れたシンデレラ
食事が終わるとレストランからすぐに出られる港の遊歩道を二人で歩いた。

何段か階段を下りて歩くそこは、ほかの場所より低くなっており大きな波が来ると水しぶき上がって遊歩道を濡らす。

目の前を父親と犬の散歩に来ていた子供が水しぶきに悲鳴を上げながらも喜びはしゃいでいる姿が微笑ましい。

少し歩くと広場がありそこでは、何人かの学生がスケボーをしていた。

二人ゆっくりと歩きながら、ぽつりぽつりと何でもない話を繰り返す。

広場から何段か階段を上ると、その先には赤い灯台が見える。

二人何も言わずにそこを目指した。

両手をポケットに入れて、千鶴の少し前を歩いていた宗治が振り返り右手をそっと千鶴に差し出した。

とまどった千鶴だったが素直に左手を差出し、宗治の手に触れた。

ぎゅっと握ってくれた宗治の手が温かくて、ニヤついた顔をみられたくなくてしばらくうつむいて歩いた。

少ない会話のまま赤灯台までたどり着く。

そこにはベンチがひとつあり、ふたりはどちらからともなくそこに座り、行き交うフェリーの明かりを見つめる。

「なぁ、話たくなければ話さなくてもいい。だけど聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「君がやっておきたいことって何?」

以前千鶴が言った言葉を宗治は覚えていたのだ。

優しい目で問いかけられて千鶴は自分のことについて話をしなくてはならないと決心した。
< 101 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop