ヒールの折れたシンデレラ
「私、両親がいないの。母は私を生んだ後産後の肥立ちが悪くて……父が言うにはもともと体の弱い人だったらしいけど――三歳のときに私と父をおいて逝ってしまって」

つながれていた手をぎゅっと強く握りなおしてくれた宗治のやさしさにつらい過去の話を続ける痛みが和らいだ気がする。

「私は画家だった父に育てられたの。絵の才能はさっぱりだったけど、父のそばで毎日のほとんどを過ごしていた。そこそこ名の通った父は作品と私に心血を注ぎすぎたみたいで私が十歳のときに亡くなった。病院に行ったときには手遅れだって……自分のことはすべて後回しにしていた父だったから発見が遅れたみたい」

「……そうか」

千鶴は暗い海の中に遠くでまたたく光を見ながら話を続ける。

「その後父方の叔母に育てられて大学まで過ごした。叔父も叔母も従兄も本当によくしてもらった。でもあのころ叔父のやっていた工場が閉鎖の危機に追い込まれてて、父の残してくれていた財産を少しずつ使ってどうにか持ちこたえていた状況でね。それは私も納得していたのだけど……どうしても手元に置いておきたかった絵を叔父が売ってしまった。それをどうしても取り戻したいの」

あの時のことを思い出して次の言葉がなかなか続かない。

口をぎゅっと結ぶ千鶴に宗治は背中をポンポンと叩く。
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