ヒールの折れたシンデレラ
「ご馳走さまでした」

「いや、オムライスオムライスってうるさいから仕方なく行ったけど、確かにうまいな~」

「でしょ?」

千鶴は自分のお気に入りの洋食屋さんの煉瓦亭へ宗治とランチに出かけた帰りだった。

会社近くなので徒歩で移動していた。

宗治と出かけるときは車が圧倒的に多いが千鶴はこうやって社内以外で肩を並べて歩くのが好きだった。

ふと宗治の右手が千鶴の左手を握ろうとしているのに気が付いて、千鶴は急いで手をひっこめた。

「会社の近くですよ。誰かに見られたらどうするんですか?」

「別にかまわないけど」

何か問題でも?とでも、と顔に書いてある。

そういいながら、もう一度千鶴の手を握ろうとする宗治。逃げる千鶴。二人はじゃれあいながら会社への道を戻って行っていた。

「宗ちゃん?」

そんな二人に後ろから声がかかった。正確には宗治にだ。

「妃奈子?」

振り向いた宗治の口から女性の名前が出たことに千鶴は驚いた。

下の名前を呼び捨てにする関係。それはそんなに多くない。嫌な予感が体を駆け巡る。

「宗ちゃん久しぶり?何度か連絡したんだけど……あっ、こちらは?」

「俺の秘書で瀬川さん。こっちは兄貴のお嫁さん」

今までと違う冷たい声で話す宗治。
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