ヒールの折れたシンデレラ
「一年以内に常務を結婚させたら、何かの報酬をもらえるって話でした」

真偽のほどは定かではないが宗治にダメージを与えるには十分な内容だった。

そもそも千鶴が秘書課に配属された理由がいまだに不明だった。

祖母が葉山のことを思ってそういう手段に出てもおかしくはない。

「なにか瀬川さんに聞かれませんでしたか？結婚についてだとか、家族について――お兄さんについてだとか」

「兄貴……」

確かに最近急に竜治の話を振ってきたことがある。

祖母の和子が二人の間の亀裂を修復したがっていることは以前から知っている。

宗治は自分の足元がぐらつくのを感じて、ソファに一層体を預けた。

「私、私なら常務にそんな顔、絶対にさせません」

そういって宗治に近づいて、手をぎゅっと握りしめる。

「私を選んでください。だますような真似をして常務に近づくような女には負けません」

―――だますような真似……。

（千鶴が今まで自分に見せてきた飾り気のない笑顔や、情熱に潤んだ瞳や、拗ねた顔――すべてが偽物だというのか……）

宗治はこめかみのあたりを押さえた。

「……常務」

ゆっくりと宗治に触れていた園美の手を払う。

「一人にしてくれないか」

「でも……」

「いいから、早く出て行ってくれ」

宗治の絞り出すような冷たい声を聴いて園美は部屋を出ていく。

口角だけをくっとあげて、笑みを必死でこらえながら―――。

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