ヒールの折れたシンデレラ
「だけど私にはそんなことできる権利なんてなかったんです。そもそもそこまで彼に信頼されていたわけではないし」

「二人の間に何かあったの?」

そう聞かれて千鶴は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「最初から何もなかったのかもしれません……」

今にも泣きだしそうな笑顔を作ってそう語る千鶴に妃奈子の心も締め付けられるようだった。

「お役にたてずにすみませんでした」

伝票をもって立ち上がる千鶴が最後に妃奈子に言い残す。

「きっともう少しすれば、宗治さんとお兄さんの間に新しい時間が流れ始めると思います。だからそれまではそっ
としておいてあげてください」

一礼して、千鶴はテーブルを立った。
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