ヒールの折れたシンデレラ

(2)退職願

勇矢はめったに呼ばれない会長室に呼び出された。

いつかはこういう風になるだろうと思ってはいた。

宗治と和子の関係はまだしも、他の葉山の家族の間と宗治の間にはお互い大きな溝ができていてそれはずっと埋まらずにいた。

その溝に流れている水はとっくの昔に澱み切っている。

宗治と千鶴の関係を和子が知らないわけがない。

そしてその二人の関係がおかしくなってしまったことも。

ノックをして会長室に入るとそこには、和子と宗治の義理の姉妃奈子がいた。

勇矢にとって妃奈子は親友をあんな風にしてしまった張本人だ。

正直好意的にみることなどできない。

それでも秘書の顔を張り付けて、丁寧に頭を下げた。

「お呼びでしょうか?」

すると和子がそっと机の上に一枚の封筒を出した。

「彼女から預かっています」

そこには綺麗な字で退職願と書かれた封筒があった。
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