ヒールの折れたシンデレラ
***

「あぁ、わかった。その件に関しては早急に確認をしてくれ。できるだけ早く」

宗治は受話器を置いてため息をついた。

ここ何日も千鶴の声を聴いていない。

自らそう仕向けたにも関わらず、心も体も千鶴を欲している。

目を閉じると、千鶴の顔が浮かぶ。

ぎゅっと眉間にしわを寄せ目元を押さえた。

ノックの音で現実に引き戻される。

「どうぞ」と声をかけると、そこには見慣れた親友の姿があった。

その表情から今から聞く話が自分を喜ばせる話ではないことの予想ができた。

「これを」
すっと机の上に置かれた封筒には【退職願】と記載されている。

まさかと思い裏をみるとそこには千鶴の名前が。

「これはいつ?」

「どうやら会長に提出したようです。あなたには出せなかったみたいですね」

“ドンっ”と音を立てて宗治が机をたたく。


「もう退職されて我々とは関係ないですから申し上げますが、彼女は会長のもとでこう言ったそうですよ。『彼を傷つけてすみませんでした』って頭をさげたそうです」

「……千鶴」

「もう今更関係ないことですが、彼女はずいぶん前に会長の条件はのめないと申し出たようですよ。報酬などいらないからと。彼女が望んだのは秘書課に残ることだけでした。あなたの傍に……」

「もうわかった……」
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