ヒールの折れたシンデレラ
「いいえ、まだあります。会長が彼女に報酬として提示したのは、彼女がずっと探してきた母親の絵だったそうです。それさえも彼女はいらないと言い切ったそうですよ」

いつもにもまして冷たい声の勇矢はまだ話を続ける。

「竜治様の件についても妃奈子様が瀬川さんに頼んだそうです。彼女はどんな気持ちだったでしょうね。元カノからお前の過去をきかされて……」

「わかっている。そんなことわかってる!」

勇矢が今つげたことは、すでに宗治も知っていたことだ。

しかしそれを改めて聞かされると千鶴の気持ちがどれほど傷ついたのかを思い知らされた。

「なにが知ってるだよ。バカヤローが。だったらどうして彼女がここまで追い詰められるまでに何とかしなかったんだ!」

急に口調の変わった勇矢に宗治は顔を上げる。

「今お前がやるべきことは、ここでそうやって頭抱えてることじゃないだろう。どうして急に彼女がここからいなくなったのか考えろっ」

胸倉をつかまれてゆすられる。

「……まさかもう動き出したのか?」

宗治の顔つきがかわる。

「あぁ、日下の回りの動きがかなり早い。証拠完璧に集めていたら間に合わないぞ。今日の夜のフライトで家族とドイツに逃げるつもりだろう」
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