ヒールの折れたシンデレラ
「瀬川千鶴さん。東西大学経済学部を優秀な成績で卒業後、新卒で我が社に入社。入社後すぐに経理課に配属以後五年間異動もなく経理課に在籍――そろそろ異動してもいいんじゃないかしら?」

「それだけの理由であれば他の部署もあるのに、どうして秘書課に異動なんですか?」

相手が会長だろうときちんと聞いておかないといけない。

そもそも、この会社の秘書課は特別なのだ。

入社試験もほかの社員とは別枠でもうけられている。

選考基準もほかの社員とは違う。

それは葉山ホールディングスの秘書課が別名


『社内大奥』


と呼ばれる部署だからだ。

歴代の後継者の伴侶がこの秘書課からでていることからいつしか後継者候補が適齢期になるころには秘書課が『大奥』と化した。

入社試験はさながら「お見合い会場」となる。

家柄、学歴、容姿、普通の入社試験では加味されない項目が採点されていく。

そんな秘書課になぜ千鶴が配属されるのかさっぱり見当がつかない。

千鶴の知っている範囲では、秘書課に異動になった人など聞いたことがない。

「理由ね。私の気まぐれでも言っておこうかしら」

千鶴が納得できない表情を浮かべると和子はさらに言葉をつづけた。

「あなたには特別にやってもらいたいことがあるのよ」

「やってもらいたいこと?」

「そう。常務の葉山宗治(はやまそうじ)を一年以内に結婚させてほしいの」

千鶴は驚きで目を見開く。

孫の結婚をこの経理課出身の一社員にどうにかしろといっているのだ。おどろかないわけがない。
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