ヒールの折れたシンデレラ
「え?意味がよくわからないんですけど……」

「もうね、私も先がそんなに長くないと思うの。ひ孫の顔が見たいのよ。いつまでもチャラチャラあそんでる孫をどうにかしてほしい」

「はぁ……」

(殺しても死ないと思うけど)

思っていても口には出さない。千鶴だって立派な社会人だ。

「でもどうして私が?」

「適正があるからとでも言っておこうかしら。私こう見えても人を見る目はあるのよ」

千鶴の何を知って適正があるといっているのだろうか……。

「異動が嫌ならユニオンもあるから訴えたらいいわよ。でもこれを見ても嫌だっていうかしら?」

そういった和子は会長室の奥にある扉を開いて千鶴を招き入れた。

「こ……れっ」

勢いよく和子のほうに振り向く。

「一年間、一年秘書課で頑張れたらこれをあなたに差し上げます」

そうにっこりほほ笑む和子の顔は天使のようにほほ笑んでいたけれど、千鶴には意地悪な魔女にしか見えなかった。

「絶対に断れないのわかっていて言ってるんですね」

「まあ心外だわ。選択権はあなたにあります」

これだけの会社のトップにたつ人だ。千鶴みたいな小娘がいくら抵抗してもいいようになるはずがない。

「わかりました。一年間ですね。約束は絶対守ってください。失礼します」

千鶴は覚悟を決めて会長室を後にした。

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