ヒールの折れたシンデレラ
「瀬川さん、その恰好……」

千鶴の今日の恰好は明るめのグレーでピンストライプの入ったパンツスーツだ。

経営企画室の今回のメンバーが男性ばかりでスーツ姿なので気が付かなかったが、秘書課の面々がホステス役として着物やイブニングドレスなどを着用するのが慣例らしかった。

（どうしよう、今更どうしようもない……）

受付を済ませたお客様が会場に続々と入っている。

こうなってしまった以上このまま業務に携わるしかない。

そう思い次々来るお客様を園美とともに案内していると会場で言い争う声が聞こえた。

何事かと思い視線をむけると、そこには華子と艶香が二人とも腕を組んで睨み合っているとこだった。

あの二人が言い争いをしている姿は別に珍しくもない。

しかしここはすでにお客様をご案内している会場だ。

状況を確認するために園美と近くに行くとそれにつれて二人が言い争う声が大きくなる。

「――あなたこそがその下品なドレスを脱ぐべきだわ」

「はぁ？そんな時代遅れな服着てる神経を疑うわ」

近づくとどちらもかなりヒートアップしているようで、きれいにメイクした顔がだいなしだった。

「お二人ともここはお客様も見えますし静かにしてください。いったい理由は何ですか？」

艶香はともかくとして華子は育ちのよさと、ある程度の常識を持ち合わせている女性だ。

なのにどうしてこんな風に公衆の面前でどなりあっているのか。

千鶴が入ったことで静かにはなったけれど、まだお互いを睨み合っている二人。
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