ヒールの折れたシンデレラ
「あの、できました」

千鶴は入口から新聞を読んでいる宗治に声をかけた。

顔を上げた宗治が目を見開いたまま黙っている。

(何とか言ってよ。ダメだった?)

ダメだといわれてもどうしようもない。

千鶴は用意されていたドレスを身にまとい、されるがままに化粧をされたのだから。

千鶴に準備されていたのは、ストラップレスで胸元が大きくあいたロイヤルブルーのイブニングドレスだった。

下に行くほど淡い色合いにグラデーションになっていて裾はオーガンジーがきれいな波を作っていた。

イブニングドレスなど身に着けたことのない千鶴は正直これでいいのいかどうかわからない。

化粧も派手ではないが、普段ほとんど手の込んだことをしない千鶴にとってはつけまつげ一つつけるだけでも印象が大きくかわった。

普段肩につかないくらいの長さの髪だが、今は大きくゆるくカールされた付け髪が胸元で揺れている。

「うまく化けたな」

口角をきゅっとあげて笑う宗治をみて合格点であることは理解できた。

「自分でもそう思うので否定はしません。これ常務が準備してくれたんですか?」

「そうだよ。どうせまともなドレスなんて持ってないだろうと思って」

そういいながら、千鶴のほうに腕を出してきた。

「あの……これ」

「お手をどうぞ」

くいっと腕を出してくる。

そっとその腕に手を回すと「遠慮しないで」と反対の手できちんと握るように促された。

着たことない豪華なドレスに、履いたことない高いピンヒール。

はじめは恥ずかしかった千鶴だったが宗治の腕があってよかったと歩き始めて思う。
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