ヒールの折れたシンデレラ
宗治に連れてこられたのはホテルの部屋だった。

「脱げよ」

そういわれて千鶴は声も出さずに目を見開く。

その反応で宗治は千鶴の考えがわかったのかシニカルな笑顔を見せた。

「そんなずぶ濡れのまま、パーティに出るつもりか?なんなら俺が脱がせようか?」

きれいな顔にのぞき込むようにされて千鶴は慌てて飛び退く。

「いいえ、自分でできます。シャワーお借りします」

そういって一目散にバスルームに走る千鶴を宗治は声を立てて笑った。

猫足のバスタブがあるバスルームで千鶴はシャワーを浴びていた。

こんなときじゃなければゆっくりと堪能したいほど素敵なバスルームだ。

頭からシャワーを浴びてシャンパンを落とす。

体はこれできれいになったが、さてスーツはどうしようか。

(あれ、お気に入りなのにな。帰ったらすぐにクリーニングに出さないと)

仕事が待っている。のんびりもしていられない。千鶴はシャワーの水を止めた。

バスルームから外に出るとそこにあるはずの千鶴のスーツはなく代わりに白いふかふかのバスローブが置かれている。

ほかに身に着けるものもない。仕方なくそれをつけてゆっくりと宗治がいるであろうソファのところまで歩いた。

宗治は、ソファに座ってコーヒーを飲んでいた。

その傍らには黒いスーツを着て髪をきっちりと結い上げた女性が立っていた。

千鶴が戻るのを確認するとすぐに「じゃあお願いします」と女性にむかって宗治がいうと、もう一つの部屋へと案内される。

「あの、これって……」

「大丈夫ですから、私にまかせてください」

鏡の前に座らされた千鶴に鏡越しに笑顔を向ける女性。

そして真剣な顔になり「では、いきますよ」と声をかけられた。

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