ヒールの折れたシンデレラ
「どうしていつものところにあるのに見つけられないんですか?」
「ん~ちゃんとあった?さっき何度も探したんだけどなぁ、おかしいなぁ」
せっかくの煌太との食事を邪魔されて千鶴はぶつぶつと文句を言っている。
しかしそれをまったく意に介さない様子で宗治は部屋の大きな窓から見える夜景を頭の後ろで手を組む形で見ていた。
するとくるっと千鶴のほうを振り向いて「せっかくだしお茶入れてくれない?」そういってソファに腰を下ろした。
「もうここまで来たら、なんでもやらせてもらいますよ」
給湯室に向かう千鶴に「君の分も用意してきてね」といわれた。
言われた通りに二人分のコーヒーを入れて常務室に戻る。
宗治の前にコーヒーを置き千鶴は向かい合わせに座った。
「思ったよりも素直に座ってくれた」
「さっきなんでもやらせてもらうって言ったじゃないですか」
「何でも?」
「いい加減にしないとげんこつしますよ」
千鶴のその言い方に宗治は腹をかかえて笑った。
「まさか自分の秘書にげんこつするなんて脅されるとは、ははは――ひっ……」
「そこまで笑わなくても」
コーヒーカップを手にして千鶴がコーヒーを一口飲む。
「おいしい」
湯気と一緒にコーヒーのいい香りが立ち上る。
「もう足は平気?」
階段から落ちた時のことを言っているのだと千鶴は理解して「もう大丈夫です。もともと少しひねっただけなので」と返した。
ふと宗治の顔をみるといつもは見せない切なそうな表情だった。