ヒールの折れたシンデレラ
「瀬川千鶴さん。俺と恋愛してください」


―――レンアイしてください―――


頭の中で繰り返して意味を理解しようとする。

下から見上げる宗治の顔は真剣な色を見せていて、いつもの軽いプレイボーイの顔ではない。

形のいい瞳で熱っぽい視線を向けられて千鶴は思わず「はい」と頷いていた。

自分でも驚くほどするっと口から承諾の言葉がでてきて驚く。

そして千鶴の返事の後、宗治の真剣な顔が徐々に近づいてくる。

無意識に靴のぬげた右足の踵をうかせて千鶴は自分からも彼に近づいた。

そっと触れるだけのキス。

すぐに少しの距離ができて、見つめ合う。額と額だけが触れ合う状態。

「……もう、い……っかい」

かすれた宗治の声が千鶴の耳にとどくか届かないかで、二人の唇は熱く深く交わった。

唇が離れた後宗治は千鶴をぎゅっと抱きしめて耳元でささやく。

「俺の気持ち受け止めてくれてありがとう」

まさか宗治からそんな言葉がきけると思っていなかった千鶴は、宗治の背中に手を回してぎゅっと抱きしめた。

秋の足音の聞こえる夜が二人をやさしく包んでいた。
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