ヒールの折れたシンデレラ

(2)愛を紡ぐ時間

「――本当に帰る?」

帰りのタクシーの中で三度目になる宗治の問いかけにも千鶴は「帰ります」と答えた。

「こんな日に帰るなんて無粋なこと言うヤツいるんだな」

「“粋”じゃなくてすみません」

少しふてくされて言うと「そんなところも嫌いじゃない」と髪をもてあそばれながら返されて、千鶴は自分と宗治の恋愛能力の差を思い知った。

「少し気持ちを整理したくて」

「後悔してる?」

心配そうにのぞき込んでくる宗治に千鶴は首を左右に振って答える。

「後悔はしてません。でも覚悟ができてないっていうか」

「覚悟?何それ。今させてあげようか?覚悟」

そう言って顔を近づけてくる宗治を両手でブロックする。

そうこうしていると、千鶴のマンション前でタクシーが停車する。

車から降り宗治側のドアに駆け寄ると、パワーウィンドウを下げ宗治が顔をのぞかせる。

「次会う時は覚悟しっかりしといて。おやすみ」

そう言って少しかがんで宗治の話を聞いていた千鶴の頬に軽く口づけをした。

走り去っていくタクシーを火照る頬をさすりながら千鶴は見送った。

部屋に入ると、バックを置いただけでベッドにダイブした。

さっきまでの時間を思い出すと、自然と顔がゆるむ。そんな自分が恥ずかしくて手足をバタバタとさせる。
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