ヒールの折れたシンデレラ
「常務とキスしたんだ……」

口にだすとまた恥ずかしさが込み上げてきた。

それと同時に自分の中に湧き上がる不安と千鶴は戦わなくてはならなかった。

宗治のことは好きだ。

けれど結婚しないと千鶴に言っていたものの、葉山の次期跡取りとなると宗治の意志だけではどうこうならないのではないだろうか?

もし宗治が秘書課の誰か、または別の人と結婚することになったら千鶴は耐えられるのだろうか。

幸せでいっぱいだった胸がすぐにペシャとしぼむ。

それにプレイボーイと言われる宗治のことだ、すぐに千鶴にあきてしまうかもしれない。

そして千鶴自身のトラウマも自分で越えられるだろうか。

これ以上好きになってしまっても大丈夫なのだろうか。

始まったばかりの恋なのに千鶴の胸には不安が渦巻く。

それでも――

それでも、やはり宗治の傍に少しでもいたい。

いつかつらい思いをするのであっても、今だけでも彼と共にありたかった。

そんな刹那的な感情を自分が抱くなんて……。

自分の気持ちに驚くとともに、そういう気持ちにさせてくれた宗治に出会えたことが何よりもうれしかった。

目を閉じると「俺の気持ち受け止めてくれてありがとう」そう言ったときの嬉しそうな宗治の顔が思い浮かんだ。

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