ヒールの折れたシンデレラ
一度休憩を挟んで一時間半ほど車が走ったさきにあったのは、牧場の横にある工房だった。

規模としてそんなに広くない牧場にはジャージー種だろう牛が放牧されていた。

車からおりた千鶴は、背伸びをして運転席から降りてきた宗治を振り返る。

「あの、ここって……」

「あぁ、俺の恋焦がれてる人がここにいるんだ」

「……えっ?」

一体何を言ってるんだろう。

千鶴は昨日からの浮ついた気持ちがさめていくのを感じた。

確かに宗治には今までも女性の影はあった。

ただ昨日の今日でこんな風なことがあるとは思ってもいない。

もしかして昨日の告白自体、千鶴と宗治の間に感情の相違があるのではないかと思えてきた。

一気に暗い表情になって押し黙ってしまった千鶴に対して宗治は嬉しそうに笑う。

「君も会えば好きになるよ」

そう言って背中を押して工房へと連れていかれた。

(私も好きになるほど素敵な人ってこと?それなら最初か敵うはずないじゃない)

そう思いながらも、ここまで来てしまった以上中に入らないわけにいかなかった。

引き戸を引いて中に入る。お世辞にもおしゃれとは言いがたいそこにいたのは一人の“おばあちゃん”だった。
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