ヒールの折れたシンデレラ
「ハルさん来たよ!」

近づいて大きな声をだしてハルと呼ばれた老人の耳もとで宗治が話す。

すると笑顔になって「よく来たね」と返事があった。

「あの……」

置いてけぼりにされた千鶴が宗治に声をかける。

「この人ハルさん。この工房の主で、俺の恋焦がれる人」

人の悪い笑顔を浮かべる宗治をみて千鶴自分がからかわれたのだと知る。

軽く睨んだものの、ハルさんの手元をみて千鶴が尋ねる。

「これ、もしかしてチーズ作ってるんですか?」

そう尋ねると嬉しそうにほほ笑んでから「食べるかい?」と尋ねられ千鶴は満面の笑みで「いただきます!」と答えた。

お皿に小さくカットされたモッツァレラチーズが爪楊枝に刺されて乗せられてきた。

それを宗治と共にいただく。

濃厚なチーズの味に思わず顔をほころばせて「おいしい」というと「もっと食べなさい」と言って促された。

「なぁ、うまいだろう?」

宗治もふたつ目を口に入れながら言う。

「うちのデパートに置きたいって何度も頼んでるんだけど、なかなか首を縦にふってくれないんだよ。つれないだろう?」

そういう宗治にハルが返す。

「また、その話かい。私もいい男にここまで言い寄られて悪い気はしないけど生憎それとこれとは話が別だからね」

そういってバッサリと断れる。

肩をすくめて「またふられた」という宗治に千鶴とハルは顔を見合わせて笑った。
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