ノーチェ


頬を伝う涙が
後ろへ流れてゆく。

駆け出した夜の住宅街は街灯と月明りがやけに眩しくて。



『何でお前今にも泣きそうな顔してんの?』

傷ついてる心が
歪んだ感情が、あたしの瞳を濡らしていった。




「莉伊!」

「離して!」

必死で走ってたはずなのに、いとも簡単に薫に掴まったあたしの腕はようやく走る足を止める。



「なぁ、確かに俺は間違ってない、そうお前に言ったよ。だけどさ…。」

あたしの両肩を掴み、薫は顔を覗き込んで言葉を繋いでゆく。



だけどもう、これ以上心をかき回されたくなくて

あたしは顔を上げると
すぐ目の前に居る薫を睨み付けた。



「何よ、偉そうに!どうせ薫だって、本当は思ってるんでしょ?」

傷つけたくないのに。

「あたしの事、不倫するような汚い女だって、人の旦那を好きになるような最低な女だって、思ってるなら言えばいいじゃない!!」


――傷ついて欲しくなかったのに。



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