ノーチェ


生きる事は難しい。


誰かを傷つけて、そして自分も傷ついて。




誰かを傷つけなきゃ生きていけないなんて

もしかしたら人間は、生まれてきたその時から罪を背負ってるのかもしれない。




「…莉伊…。」

早口でまくし立てたあたしを、薫が傷ついた瞳で見下ろしてる。

言ってしまってから後悔したって、もう後戻りなんて出来ない。



だけど薫はそれでも尚、あたしの肩を離さなかった。


「…そんな事、思ってねぇよ。」

震えた、薫の声。



「俺はお前を、そんな風に思った事ない。」

そして薫はそのままあたしの肩を自分へ引き寄せる。






「俺、莉伊の事――…」


生きる事、愛する事。









「――…好きだ。」



それは、きっと
とても儚くて、とても脆い形。



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