Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 先ほど遼太郎が不自然に自分から逃げていったように感じたことが、やはり気のせいではないことを覚った。

 今まで、遼太郎がこんな態度をとったことなどないからこそ、みのりには一気に戸惑いと不安が押し寄せる。でも、それを気取られまいと、必死に平静を装った。


「狩野くんは、『環境の歴史』?環境学部だからね。でも、これじゃちょっとテーマが大きすぎるから、もう少し絞って。また考えよう。」


 そう言っても、遼太郎は返事もしない。

 授業が終わるチャイムが鳴り響く中、みのりは手にしたプリントを遼太郎へと返さずに、教卓へと戻りながら、


「それじゃ、今日のプリントは回収します。後ろの席の人は集めてきて。」


と、指示を出した。


 礼をして、集められたプリントを揃えながら、みのりは体が震えているのを感じた。
 遼太郎を見て、目を逸らされるのが怖くて、生徒の方へ顔も向けられなないまま教室を出た。


――さっきは、あんなに優しく微笑んでくれたのに…。


 先ほど、遼太郎が逃げ出す前に見せてくれた笑顔を、みのりは思い返していた。


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