不埒な騎士の口づけは蜜よりも甘く

弱々しい声音は、それでも確かな想いを秘めている。


せめて、今だけは。周りに誰もいない今だけなら、結婚のことも国のことも何にも考えずに自分の本当の想いを吐き出してもいいだろうか。……許されるだろうか。


そして、溢れる涙もそのままに叫んだ。


「嫌よ!嫌だわ!わたくし、貴方と離れたくないの!どうしたって、離れたくない……っ。わたくしには、今までもこれからも、ずっとずっと貴方が必要なの!傍に、いてほしいの。だって、わたくし、貴方のことが、だい、大大大大っだーーーーい好っ……んっ!」


どん、という軽い衝撃の後で、わたくしの身体は抱きすくめられていた。


そしてそのまま、唇にあたる熱い感触に目を瞠る。
頬を押さえるいつもと同じ熱、腰を支える逞しい腕、身体にあたる厚い胸板。


(ディランだわ……)


そう思うと、愛おしくて、彼に対する想いが溢れて止まらなくて、そのまま目を閉じる。


優しく柔くわたくしを包み込むその熱が、懐かしくて。
唇の感触は初めてのはずなのに、それが当たり前みたいにすんなりと受け入れられて。


(ディランだから、わたくしはこんなにも安心している。……こんなにも、胸が高鳴る)


腕を伸ばして、彼の首に絡める。
愛しい気持ちを、示したいと思った。


わたくしも貴方と同じ気持ちだと、証明したかった。


おずおずと唇が離れると、わたくしとディランは互いを見つめる。
熱情を孕む瞳は色っぽくて、このまま彼のものにして欲しいとさえ思った。


「ディラン……」


囁くように、どこか茫然として呟くと彼はその言葉すら自分のものにするかのようにもう一度深く口付ける。思わず声にならない声を上げると、もっと口付けは深くなった。


「ずっと……こうしたいと思っておりました」


そっと唇が離されると、彼はそんなことを口にした。


「……そう、なの?」


そんな素振り、彼は一度だって見せたことはない。いつも冷静で、無表情で、わたくしに対してだってなにを考えているのか分からない表情で。


「そうですよ。……意外でしたか、俺があなたを見つめながら欲情していたことが」


その台詞に真っ赤になる。
すると彼は愛おしげに喉の奥で笑った。恥ずかしくて、憎らしくて、彼を睨む。


「馬鹿なこと言わないで」


「申し訳ない。ですが本当のことですので」


そして彼はわたくしを離す。
名残惜しくディランを見つめるも、軽く彼は頭(かぶり)を振る。


「……最後に、これ以上ない思い出を頂きました。もう思い残すこともありません。さあ、お行きなさい、貴女には待っている方がいる」


その言葉が胸を貫く。やはり彼はわたくしを手放すつもりであると。




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