シェリー ~イケない恋だと、わかっていても~
【え、そんな遅くなるの?でもごはんも作ったし、起きて待ってるね!】


そう送れば、ほどなくしてメールが届いた。


【いや、ごはんはいらないから。それより、寝てろよ?】


なんだろうか、この変な胸騒ぎは……。今までこんなこと、一度もなかった。


「うわ、き……?」


言葉に出して言うと、急に怖くなった。肩が震え、心臓もバクバクと鳴りだす。


けいちゃんに限って浮気なんて……。ないよね?


ねぇ、けいちゃん。仕事、なんだよね……?わたし信じても、いいよね……?


だって今日は、結婚記念日だもん。忘れるはずがない。去年も一昨年も覚えててくれてたもん。


けれど、メールの返事をすることができず、わたしはテレビも付けずにけいちゃんの帰りを待った。


時計の針は、もうすぐテッペンにくるところだった。


いつも7時には帰ってくるのに、いくら仕事だからってこんな時間になるのはおかしい。


珈琲でも飲んで気持ちを落ち着かせようと、席を立った時ゆっくりと鍵の回す音が聞こえた。


帰ってきた!!


けいちゃんが、どんな様子で帰ってくるのか不安だらけのまま、わたしは迎えに行く。


リビングから玄関までは、ちょっとした廊下があり、右にトイレがあり左にちょっとした物入れがある。


ドアが開き、忍び足で入ってきたけいちゃんは、わたしがいることに気付いていないらしい。


大きく息を吐き出し靴を脱ぎ、フローリングに足を付けた時、わたしの姿を見つけたけいちゃんは目を大きくさせた。


「……っ、寝とけって言っただろ!!」


どうして、けいちゃんは怒っているんだろう。


だって普通そこは、〝起きてたのか?〟とか〝寝てて良かったのに〟でしょ?


そんな風に怒ったら、余計不安になるよ…。


「ごめんなさい……。でも今日は、」


喋りながら、けいちゃんのコートを預かろうと手を差し出した時、『いや、いいから』と断られた。

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