ウソつきより愛をこめて

「もしかして欲求不満なのかな…」

頬杖をつきながら独りごちた私の前で、美月が飲んでいたコーヒーを喉にぐっと詰まらせる。

「…あっぶなー!危うく吹き出すとこだったじゃん。ちょっとエリカ、いきなり何を言い出すの?」

「だってさー…はぁ…」

疲れているはずなのに、夜ぐっすり眠ることができない。

頭には思い出したくないはずのあの濃密な出来事が、何度も何度も思い浮かんでしまって…。

実際近くにあの香りを感じただけで、頭がおかしくなりそうになる。

橘マネージャー避けている理由は、単に怒っているからだけじゃない。

長い指先に、形の整った薄い唇。

あの黒く澄んだ瞳と目が合うだけで、呼吸困難に陥りそうになる。

彼は昔から、とにかく無駄なフェロモンが出ているのだ。

付き合っている時ですら、ここまで意識したことはなかったのに。

まさか、あの毒に自分が当てられてしまうなんて、どうかしてる。

「珍しいね。エリカが自分からこういう話待ち出すの」

「んー…、自分では淡白な方だと思ったんだけどね」

「つまりヤリたくて仕方ないんだ?橘マネージャーと」

「……ごほっ!」

「仕返しー」

涙目になりながら、胸の辺りを必死で押さえる。

豪快に咽せった私を、美月はなにやら満足そうに見つめていた。

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