ウソつきより愛をこめて
私は時折鼻を啜りながら、寒空の下をとぼとぼと駅ビルに向かって歩いていく。
さっき弱々しく頷いてくれたひろくんを、今は信じて待つことしか出来ない。
どうか寧々にとって一番幸せな選択を二人が導き出してくれるといいんだけど…。
「…なにこれ、ひどい顔」
手鏡に映った私の顔は、泣いたせいでアイラインが剥がれ落ち、マスカラもカール力を失い目尻に張り付いてしまっている。
ウォータープルーフといえど、あれだけ泣けば大惨事なのだ。
「直さなくてもいいや。…もう寧々迎えに行って帰るだけだし」
そんなことに時間を割くくらいなら、一秒でも早く寧々に大好きなママの姿を見せてあげたい。
なるべく顔が隠れるようにマフラーを巻き直して、私は早足で保育園へと向かっていた。
「寧々ー、迎えに来たよー!」
「あ、ママっ!」
保育室のドアから中に向かって声をかけると、寧々が嬉しそうに私の元へと駆け寄ってくる。
「しょうちゃんと、ちゅみきしてた!」
「ちゅみき…?」
寧々にそう言われておもちゃのコーナーを覗くと、なぜかそこには寧々の身長の高さまで必死に積み木を積んでいる橘マネージャーの姿がある。
私は驚きのあまり、思わず目を見張ってしまった。
「うーわー、倒れた!!」
「きゃーっ」
私が現れたことに気づき、積み木を豪快に倒してしまった橘マネージャーが寧々と大はしゃぎしている。
「…自分の娘放っておいて、どこに行ってんだよ。この不良ママ」
「橘マネージャーこそ、今業務中のはずでは」
「俺は…短い休憩時間を割いてでも寧々と遊びたかっただけだ」
そういえば、最近橘マネージャーは休憩中に喫煙室を使わなくなった。
…きっと本気で、禁煙するつもりなんだ。