ウソつきより愛をこめて
「…潤ったみたいだねぇ」
「なんのこと」
「せっかく二人きりにしてあげたのに、なに?そのつれない態度」
「いいから、早く美月も一番行ってきなよ」
ぐちゃぐちゃに荒らされた商品を必死で畳み直しながら、からかってくる美月を牽制する。
今日はクリスマスイブという事で、これから夜にかけての集客はあまり期待できない。
ピーク時とは対照的に閑散としてしまった売り場の手直しぐらいしか、正直言って今はやることがなかった。
「じゃあ、ゆりちゃんも一緒に連れてくね。あがってきたら、みんなで一斉に商品整理始めよう」
「いってらっしゃい」
橘マネージャーもさっき定時で上がってしまい、なんだかひとり残されたような気分になって寂しく感じる。
…私って、こんなに弱い人間だっけ。
ここに来たばっかりの時はずっと気を張ってて、周りになんて頼ることなく全部自分で背負い込んでばかりいたのに。
橘マネージャーが来てから、いつの間にか甘えることの心地よさを覚えてしまった。
このまま、あの温かい腕なしじゃ生きていけなくなりそうな自分に恐ろしさすら感じる。
なんでこんなに好きになっちゃったんだろう…。
仕事中でもこういう作業だけを淡々とこなしている時は、橘マネージャーのことばかり考えるようになってしまった。
ふーっと息を吐きながら、背筋を伸ばしたその時。
「…あの、すみません」
後ろから鈴のなるような愛らしい声が聞こえて、私は慌てて体勢をたて直し、笑顔を作って振り返る。
「は…」
でもその女の人の顔を見た瞬間、時が止まったように動けなくなってしまった。