ウソつきより愛をこめて
背筋を冷や汗が伝っていき、震えた唇を咄嗟に覆う。
二年も前のことなのに、顔を覚えてしまっている自分を激しく呪いたくなった。
「あの、翔太は…ここにいますか?」
美しい艶のある長い髪を揺らしながら、彼女がその名を口にする。
やめて。呼び捨てにしないで。
そう言いたいのに、渇いた喉からは声が出てこない。
黙って首を横に振るのが、私には精一杯だった。
「そっか…どうしよう」
『ねぇねぇ、翔太って今彼女いるの?』
『…は?別に、いないけど』
『本当!?じゃあ私、翔太の彼女になっちゃおっかなぁー』
そう言って、嬉しそうに橘マネージャーの腕に細い手を絡めたこの人の姿が、鮮明な記憶として甦ってくる。
彼女は名前で呼び、彼もタメ口で話していたから、すごく親しそうに見えた。
大人でものすごく綺麗なこの人が橘マネージャーの隣に並ぶと、私では到底敵わないくらいお似合いで。
胸を思いきりかきむしりたくなる。
…やっぱり間違いない。
橘マネージャーの車の助手席に、彼の仕事が終わるまで我が物顔で乗って待っていたのもこの人だった。
「えっと私、翔太の彼女で、奈良橋梓(ならはしあずさ)って言います。実は彼とは東京で同棲してるんですけど、こっちに出張になってから、なかなか連絡が取れなくて…。今日クリスマスだし…驚かせようと思ってここに来ちゃったんです…」
ころころと悪気もなく笑う彼女の顔が、傷ついた心を更に深く抉っていく。
雷に打たれたような衝撃が、私の身体を縦に走っていた。