ウソつきより愛をこめて
ひろくんの話では、マリカは相変わらず会ってすらくれないらしい。
足繁く病院に通っても、“今更なんの用”と門前払い。
日に日に憔悴しきってしまったひろくんは、やっぱりダメなんじゃないかとまたネガティブモードに陥っていた。
橘マネージャーの前で見せたあの男らしさは、一体どこに行ってしまったんだろう。
「…マリカは意地っ張りだからね。あの子、喧嘩になると絶対“もういい”って言い出すでしょ?」
「さすが双子だね。毎回必ずと言っていいほど言われるよ」
「謝るタイミングが遅すぎたり、その時言って欲しい言葉じゃないとすぐ拗ねるから。…まぁ今回は、さすがにこじれすぎだと思うけど」
「あー…どうしよう。寧々~…」
「疲れて寝たんだから!起こさないでね」
今夜は、マリカの病院近くのホテルにみんなで泊まることになった。
もちろん最後の思い出に、私と寧々だけ同じ部屋。
ひろくんは寧々と二人が良かったみたいだけど、この権利を譲るわけがない。
「…なんか、エリカ本当の母親みたいだな」
「寧々には色んな事教わったからね」
「俺もダメだよな。父親らしくちゃんとしないと…」
「そうだよ。でないと、また私寧々のこと連れて帰っちゃうからね」
「明日こそ、マリカを振り向かせてみせる」
どんなにワガママでも、ひろくんは決してマリカを見捨てたりしない。
寧々の存在も大きいけど、それはマリカのことを深く愛しているからだ。
「…いいなぁ」
「え、なんか言った?」
「ううん。…明日頑張ってね」
私は寧々の隣にいるテディベアを見つめながら、もう二度と思いを通わせることのないあの人のことを、ぼんやりと思い出していた。