ウソつきより愛をこめて
「寧々、人いっぱいだから迷子になるよ。ちゃんと手繋いで」
「はぁい」
新幹線からホームに降り立ちエスカレーターを上ると、人の波が右往左往と一気に押し寄せてくる。
寧々が潰されないように守りながら、私は目的の場所へ必死で足を進めていた。
相変わらず、東京駅の人の多さは尋常じゃない。
もし寧々とはぐれたら、絶対見つけられないし自分も間違いなく迷子になる自信がある。
仙台から向かう新幹線の席はガラガラだったし、なにせ丸2年ぶり。
…この土地の恐ろしさを私はすっかり忘れていた。
「寧々ー!エリカー!」
「あ!パパいたっ!」
「うわーん、ひろくーん」
散々歩き回ってようやく彼の姿を見つけた私は、安堵して涙が出そうになる。
子供を連れての長距離移動が、まさかこんなに大変だと思わなかった。
「良かった、無事役目を果たせて…」
「大げさだなぁ、エリカは。だから大変だって言ったのに」
人の気も知らずに、爽やかに笑うひろくんが憎らしい。
寧々に会えたことがよほど嬉しいのか、目尻を下げながらずっとにこにこしてる。
「…マリカのことは?どうなってんの」
ひろくんの車に向かう途中さりげなく聞いてみると、彼はさっきまでの表情が一変。
なんだか気まずそうに、口を閉ざしてしまった。
信じられない。
あの日から、一週間は仲直りする時間があったのに…!
「…まさか、まだ、とか言わないよね」
眉間に皺を寄せながら問い詰めると、ようやく“ごめん”と白状されてしまった。