ウソつきより愛をこめて

***

「ちょ、ちょっとエリカ!」

「…何」

「うわ…超ぶっさいくな顔」

早番の美月ともうひとりのパート従業員はもう上がる時間で、これから売り場に残されるのは私と橘マネージャーのふたりだけ。

結局ゆりちゃんは来れなくなって、橘マネージャーがいなかったら私は今日もサービス残業することになっていただろう。

「ムカつく…本当は同じ空気を吸うのも嫌」

「まさかあれが元カレだったとはね」

「あれ…、ってどこかで見たことあるの?」

「まぁ詳しいことは後で話すよ。しかしすごいよね。普通レディスブランドに男の販売員がいたら、声かけるの敬遠しない?」

橘マネージャーが店頭に立ってから、ひっきりなしに人が寄って来ている。

「エリカの販売トークも目を見張るほどすごいけど、あれはまた違った意味ですごいね」

「イケメンはね、笑って似合いますよって言ってればいくらでも服が売れるのよ。似合ってなくても平気で嘘つくんだから」

「まぁ、うちらは服を売るのが仕事だからね」

「ちょっと美月、さっきからなんで橘マネージャーの肩持つの?」

「いやぁ…想像以上に上玉すぎるんだもん。エリカが付き合えたのは奇跡なんじゃない?」

「そうですね。あの人気持ち悪いほどモテてましたから」

「もう拗ねないでよー!今日もちゃんと美味しいご飯作って待ってるから」

「ありがとうございます美月様。大好き」

さっきとは別人のように笑顔を絶やさない橘マネージャーを見て、私は澱んだ深い溜息をつく。

…今日は終わったら、そっこーで帰ってやる。

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