ウソつきより愛をこめて
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「ちょ、ちょっとエリカ!」
「…何」
「うわ…超ぶっさいくな顔」
早番の美月ともうひとりのパート従業員はもう上がる時間で、これから売り場に残されるのは私と橘マネージャーのふたりだけ。
結局ゆりちゃんは来れなくなって、橘マネージャーがいなかったら私は今日もサービス残業することになっていただろう。
「ムカつく…本当は同じ空気を吸うのも嫌」
「まさかあれが元カレだったとはね」
「あれ…、ってどこかで見たことあるの?」
「まぁ詳しいことは後で話すよ。しかしすごいよね。普通レディスブランドに男の販売員がいたら、声かけるの敬遠しない?」
橘マネージャーが店頭に立ってから、ひっきりなしに人が寄って来ている。
「エリカの販売トークも目を見張るほどすごいけど、あれはまた違った意味ですごいね」
「イケメンはね、笑って似合いますよって言ってればいくらでも服が売れるのよ。似合ってなくても平気で嘘つくんだから」
「まぁ、うちらは服を売るのが仕事だからね」
「ちょっと美月、さっきからなんで橘マネージャーの肩持つの?」
「いやぁ…想像以上に上玉すぎるんだもん。エリカが付き合えたのは奇跡なんじゃない?」
「そうですね。あの人気持ち悪いほどモテてましたから」
「もう拗ねないでよー!今日もちゃんと美味しいご飯作って待ってるから」
「ありがとうございます美月様。大好き」
さっきとは別人のように笑顔を絶やさない橘マネージャーを見て、私は澱んだ深い溜息をつく。
…今日は終わったら、そっこーで帰ってやる。