ウソつきより愛をこめて

「行きません。一人で帰れます」

きっぱりとそう言い切った私に、橘マネージャーは眉間に皺を寄せた顔を向けてくる。

「バカ。あいつに会ったらどうすんだ」

「あいつ…?」

「さっきお前に無理やり連絡先聞いてた、あの、変な男だよ」

「ああ…別に、大丈夫です。前橋さんは別に私だけに固執してるわけじゃないんで」

「なんだそれ。大体お前、隙がありすぎるんじゃないか?」

「はい…?」

「俺のことはたった五文字で振ったくせに、なんであんな男、簡単にあしらえないんだ」

橘マネージャーが放った言葉のせいで、フラッシュバックしてくるあの日の私の姿。

どんな思いで私があの文字を送ったのかなんて、この人にわかるはずがない。

「…エリカ?」

急に名前で呼ばれたことで、ぼーっとしていた意識が戻ってきた。

「もう私はあなたの彼女でもなんでもないので、下の名前で呼ぶのはやめてください」

橘マネージャーに掴まれた手を振りほどいて、彼の背中を押しエレベーターの中に押し込む。

「お疲れ様でした。…大事な用事があるので、私はここで失礼させていただきます」

< 28 / 192 >

この作品をシェア

pagetop