ウソつきより愛をこめて
「行きません。一人で帰れます」
きっぱりとそう言い切った私に、橘マネージャーは眉間に皺を寄せた顔を向けてくる。
「バカ。あいつに会ったらどうすんだ」
「あいつ…?」
「さっきお前に無理やり連絡先聞いてた、あの、変な男だよ」
「ああ…別に、大丈夫です。前橋さんは別に私だけに固執してるわけじゃないんで」
「なんだそれ。大体お前、隙がありすぎるんじゃないか?」
「はい…?」
「俺のことはたった五文字で振ったくせに、なんであんな男、簡単にあしらえないんだ」
橘マネージャーが放った言葉のせいで、フラッシュバックしてくるあの日の私の姿。
どんな思いで私があの文字を送ったのかなんて、この人にわかるはずがない。
「…エリカ?」
急に名前で呼ばれたことで、ぼーっとしていた意識が戻ってきた。
「もう私はあなたの彼女でもなんでもないので、下の名前で呼ぶのはやめてください」
橘マネージャーに掴まれた手を振りほどいて、彼の背中を押しエレベーターの中に押し込む。
「お疲れ様でした。…大事な用事があるので、私はここで失礼させていただきます」