ウソつきより愛をこめて
「……………はい?」
ぽかんとだらしなく口を開けてしまった私を見て、なぜか橘マネージャーの顔が赤らんでいく。
「それは返事の“はい”なのか」
「ちょ…っ違うから!冗談はほんと、顔だけにして!」
「…俺が冗談を言うような顔に見えるのか?」
「見える。悪いけどそんなの冗談以外には受け取れない」
いきなり何を言いいだすんだ、この人は。
さっき転んだせいで、頭のネジどっかに落っことしたんじゃないの?
わけのわからないプロポーズに私が狼狽えていると、橘マネージャーはもこもこ姿の寧々に優しく笑いかけていた。
「俺が、父親になるから」
「……?」
きょとんと目を丸くする寧々の頭を撫でようとした彼の手を、私は自分の手で払いのけて必死に遮る。
「か、勝手なこと言わないで…!この子は…っ」
「いいから黙って俺と結婚しろ」
「……!」
別に橘マネージャーは私と結婚したいわけじゃない。
責任を取ろうとして仕方なく言っただけ。
きっと別の女に同じ嘘をつかれても、躊躇なく結婚を申し出るだろう。
確かに誤解されるような発言をしてしまった私も悪い。
でも簡単にそんな大事な言葉を口にする彼を、私は心から軽蔑した。