ウソつきより愛をこめて
「…お前のそれ、懐かしいな。ちょっとクルわ」
意味ありげにニヤニヤと笑う目の前の男を見て、言った瞬間後悔した。
私たちは付き合ってからお互いの名前が呼び捨てになるまで、そう時間はかからなくて。
でも私が相当恥ずかしがったせいで、呼び合うのは二人きりの時だけだった。
そして大抵身体を揺さぶってる時に、橘マネージャーは決まって私に自分の名前を呼ばせた。
二人しか知らないことをまさかこの場で思い出させようとするなんて、…どんな羞恥プレイだ。
「このセクハラエロ親父…」
こういうところ、変わってない。
爽やかな見た目とは似つかわしくないこの変態ぶり。
「俺は親父じゃねぇ。まだ二十九だ」
「中身はまるっきりオヤジですよ。自覚ないのが一番ヤバイと思います」
マジで社内のコールセンターに通報してやりたいくらいだ、と心の中で罵る。
「いいからさっさと着替えて病院行くぞ。なんなら手伝ってやろうか」
「寧々を連れてリビングに行っててください。…直ちに」
「ママがキレたぞ。怖いから行こうぜ」
なんだか私よりも寧々と仲がよくなってしまった気がして、非常に悔しい。
昨日まで遠ざけよう必死だったはずなのに、まるで家族みたいな会話。
…さっきから、橘マネージャーのペースにうまく乗せられてる気がする。